鬱エロゲーの車窓から

鬱エロゲーの考察と感想を綴る~! R18、ネタバレ注意だぜ!

『青い空のカミュ』 考察

前置き

こんばんは、いのぶらです。

前回は青い空のカミュの感想を述べましたので、今回は考察編でございます。例によってネタバレは全開で進行しますので、未プレイの方は閲覧をお控えください。

今回の考察は前回の感想で絶賛したエンディングが中心になります。

innocent-black.hatenablog.com初見だとどのような意味を含んであのような結末になったのかが、大多数のプレイヤーにとっては分かりにくかったと思います。私もすんなりとした理解はできませんでした。この点を理解すると、さらに面白いゲームであることが分かります。

 

1.導入

本作のテーマはずばり、「想い」であると言えるでしょう。

 

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ざっくりとした話の流れを概説しましょう。蛍と燐はショッピング帰りに電車でうたたねをして、昼が訪れることのない夜の世界へと迷い込んでしまいます。もともと大の仲良しだった2人はその中で互いに協力しあいながら、現実へ戻ろうと奮闘します。そして、努力の甲斐もあって、夜の世界を打ち壊して自分たちが元いた現実世界への帰還を果たしますが、結果的に帰ることが出来たのは蛍だけで、燐は夢の空間である青いドアの家(正確には青と白の世界)へ取り残されてしまいました。このような流れの中で2人の間だけではなく、燐の従妹の聡や村人など、人々の想いを強調する描写が幾度となくされていました。

 

f:id:Innocent_Black:20220114233623p:plain蛍は物心がついた時には既に両親は傍におらず、こうした生い立ちもあって大切な何かが欠けている状態で成長しましたが、その中で出会った存在が燐でした。

燐は気配り上手で周到、しっかりとした女の子で蛍の憧れです。家庭や、従兄である聡との関係が上手くいかず、傷ついてしまってもなお自分を顧みない燐を守りたいと思っています。現実世界へ帰ることにさしたる望みは持たないものの、自分の全てである彼女がそこに存在して戻りたがるのならば、そこに私も戻りたいという立場をとっています。

まじりっけがなく、透明感のある存在として描かれていたのが蛍でした。

 

f:id:Innocent_Black:20220115001654p:plain燐は幼いころから両親が存命でしたが、そんな彼女は成長の過程で様々な出来事に遭遇しました。蛍と比較すれば、よりどころとなる家族や従兄が身近にあって恵まれている境遇でしょう。しかし、必ずしもその幸せが続くとは限りません。一家離散、従兄の聡にも拒絶される苦い経験は彼女の心に影を落とすには十分でした。それらが原因となって、燐の心は深く傷ついてしまいます。

そんな中で燐は蛍に出会いました。今まで何も持っていなかったからこそ傷一つなかった蛍は、燐にとって眩しく憧れの存在として映ったと思います。そしていつしか、彼女が綺麗なままでいてくれるのならば、自分は引っかき傷だらけでも構わず、彼女を守りたいと決心するようになりました。夜の世界から現実世界へ帰りたいと思う原動力は、そこに蛍と一緒にいられる空間があるためでしたが、誰もいないマンションに戻ることに虚しさを覚えているようでもありました。

純粋な蛍とは対照的に描かれていたのが燐でした。

 

2.完璧な世界

さて、何度か作中で言及されていた完璧な世界の「完璧」とは一体何を差すのでしょうか。私はこの完璧を人の「想い」として解釈しました。その根拠を述べるためには宮沢賢治の『よだかの星』、青と白の世界、燐の紙飛行機、星について考える必要があります。

 

f:id:Innocent_Black:20220115013536p:plain本作では宮沢賢治などの文学の引用が目立ちますが、その中で注目したのは『よだかの星』で、「よだかが星になることに意味は必要でなく、そこに思いがあるから美しい」と説かれています。この部分が本作のテーマを理解する上で最も重要なポイントでしょう。

 

f:id:Innocent_Black:20220115014619p:plainプラットフォームから見える地平線の向こうにあった、青空と風車だけがある「青と白の世界」は、蛍は感知できずに燐だけが地平線の先に見ることの出来た光景でした。オオモト様はその理由として、燐に選び取った真実があったからと言いました。つまり、この空間は彼女にとって重要であることが示唆されています。

 

f:id:Innocent_Black:20220115015126p:plain蛍が夜の世界を切り替えると、1つの体に戻ることのできない聡(サトくん、ヒヒ)は自らの消滅を選ぶことで、純粋な想いを持った星になって天へ昇っていきました。これは明らかに『よだかの星』と重なる部分がありますね。

 

f:id:Innocent_Black:20220115014709p:plainf:id:Innocent_Black:20220115015033p:plain風車が回ることに意味はありませんが、回ろうする想い自体を美しいと感じるのです。燐の想いを乗せた紙飛行機は、何もかもから解放されるように空を飛び続けます。物理法則ではそれはあり得ないことですが、これは永遠にまわり続ける風車と、地面に落ちない紙飛行機は等号の関係であると示しています。『よだかの星』のエッセンスと合わせて見ると、星、風車、紙飛行機はそこに想いがあるからこそ美しいということが分かりますね。

 

f:id:Innocent_Black:20220115043622p:plain1の導入で叙述した彼女のエピソードを鑑みて、燐の想いは果たして何であったのかを考えると、それは蛍と特別な存在であり続けること、彼女の心を傷つけず綺麗なままで守り続けることだったと思います。

社会の最小単位は家族であると思いますが、燐はその環境下ですら傷をつけられました。家族との温かな思い出、完璧な瞬間は徐々にすり減っていました。夜の世界を脱しても、彼女は誰もいないマンションに帰ることになるため、現実世界へと帰りたいという思いは強くありませんでした。全てが満ち足りていた完璧な瞬間であるワタスゲの思い出も、聡の死に伴い摩滅。そのせいで元々希薄だった願望も砕かれ、傷つく恐れのある現実世界を拒絶します。

現実的な話をしますが、我々は人間社会の中で生きている以上、傷つけ合うことは必定です。何故なら我々は社会的動物であり、また個でもあるのですから、物事の考え方や受け止め方は人によって違います。ちょっとした認識の差ですら、容易く傷つけられてしまうことは誰しもが持つ経験のはずです。そうだとしても、そうした経験を糧にして我々は生きていかなければならないのです。しかし、燐はそんな傷だらけの自分に耐えられなくなりました。

燐は蛍のことを「この世のものとは思えないほどに傷一つなくて、キラキラしている子」と思っていました。それは何に起因するかというと、蛍は家族や恋人などの大切なものを持たなかった故に、燐と違って傷つくことがなく純粋であったからでしょう。友達という言葉では言い表せないほど仲のいい2人ですが、生きている以上、事件は起きます。燐が幸せと感じていた父母との完璧な瞬間が失われたように、蛍と燐の関係も様々な要因で断絶する可能性があり、絶対的なものではありません。

 

f:id:Innocent_Black:20220115034432p:plainf:id:Innocent_Black:20220114230001p:plain燐が現実世界に戻らずに、青と白の世界へ残ることを選んだクライマックスは、よだかと同様に彼女自身が星になったことを意味しています。直截に言えば、死んだと表現出来るかもしれません。

燐の想いは、蛍と特別な存在であり続けること、彼女の心を傷つけず綺麗なままで守り続けることでした。今まで何も持っていなかった蛍には、燐という大切な存在が出来ました。それはかけがえのないものですが、お互いを傷つけてしまう危うさを内包していることを燐はその経験から知っていました。そのため、自らが星になり純粋な想いに昇華させたのだと思います。青と白の世界が燐が選び取った真実とはその想いを指します。

しかし、燐は心が弱いです。なので、蛍を傷つけたくないと思うのと同じくらい、燐も蛍との幸せな時間を失いたくなかったから現実を拒否したのもあると思います。

蛍が、青と白の世界を完璧と表現したのは燐のその想いの美しさに気付いたからです。ラストシーンで線路から燐が消えても驚きを見せませんでしたが、直前での対話をする以前から燐の煮え切らない態度を見て、何となく察していたのではないのでしょうか。お互い心の機微には敏感だったようですし、心を通わせた2人ならば、そうおかしな話ではないです。

 

f:id:Innocent_Black:20220115012106p:plainf:id:Innocent_Black:20220115012214p:plainf:id:Innocent_Black:20220115054500p:plain実を言うと、森の中でDJゴドーのラジオを聞いた蛍と燐の反応から、完璧が「想い」を指すのか、はたまた「幸せ」を指すのかは迷ってはいましたが、厳密には想いが先にあってこその幸せなので、今回は完璧な世界を人の「想い」であるとして、そこに付随するものが「幸せ」としました。セットの解釈でも問題ないと思います。

燐と聡にとって、ワタスゲを見た時が一番満ち足りている完璧な瞬間で、それ以降は微妙に欠けたパズルのように気持ちが重ならずにすれ違ったと描写されました。ラストシーンでの蛍と燐の対話では、蛍に「あなた以上に大切な人なんていないよ」と告白された燐が同調すると、「2人の想いは同じ方向を向いていて、それだけで世界のパーツのすべてが、正しいところにぴったりとおさまった」と描写されました。すなわち、2人が同じ「想い」を通わせることで、危うい現実を超越して「幸せ」を十全に昇華させた瞬間でした。それはあたかも美しく輝き続けるよだかの星のように。

蛍が初めて手に入れたかけがえのない宝物、燐との思い出と想いだけは決してくすむことも、傷つくこともありません。蛍が今後生きていく上で、それは彼女を支える核として存在し続けることでしょう。燐が星になった意義はそこにあったのです。

 

3.量子力学的可能性

f:id:Innocent_Black:20220115064940p:plainf:id:Innocent_Black:20220115071124p:plain蛍と燐がハーベスターに襲われて疲弊していたところ、青いドアの家に飛んでオオモト様に膝枕されたシーン。その際に電車は来ないのかと2人は尋ねました。彼女はそれに来ると答えて、加えて燐は既に切符(資格)を持っているという事を明らかにしました。蛍にはそれがないのにも関わらず、終盤に電車が来た際に乗車することが出来たのはおかしな話だと思いましたが、この電車には行き先が表示されていなかったことから、切符(資格)を持つということはそれに乗るためのものではなく、人生における目的地(目標)の有無を表しているのではないでしょうか。

燐の目的地は「2.完全な世界とは」で、蛍と特別な存在であり続けること、彼女の心を傷つけず綺麗なままで守り続けることと考察しましたが、蛍の場合はそれがはっきりと描写されていません。プラットフォームから見える地平線の向こうに、彼女は何も見ていませんから。

 

f:id:Innocent_Black:20220115070751p:plainだからこそ、それが蛍の未来を象徴しているように思えてなりません。

「青と白の世界」の白は紙飛行機の色から、燐の想いであると読み取れます。言わずもがな、青は青空ですが、それは蛍の未来の象徴なのでしょう。夜の世界では昼が訪れず、常世の闇が広がっていましたが、蛍は世界を切り替えることで現実世界へ帰還しました。夜が明けることは物事が始まる比喩だと思いますが、このことから青と彼女の未来を掛けているのだと思いました。

電車に行き先が描かれておらず不確定だったのも、ラストシーンで線路の上を蛍が自分の足で歩いていくのも、人としての一生を表すのに相応しい描写です。彼女は一体何処へ行くのでしょうね。

 

f:id:Innocent_Black:20220115070402p:plainf:id:Innocent_Black:20220115074539p:plainf:id:Innocent_Black:20220115070139p:plainf:id:Innocent_Black:20220114022723p:plain

燐曰く、量子力学の考えでは肉体が消失しても、想いなどの意識の情報が残れば幽霊のような形となって残ります。ヒヒも似たようなことを言っていますね。そして、エンディング後のエピローグでは蛍の元に、燐が飛ばしたと思われる紙飛行機が飛んできて、蛍はそれを拾い上げます。

 

f:id:Innocent_Black:20220115014859p:plainf:id:Innocent_Black:20220115014921p:plainf:id:Innocent_Black:20220115014934p:plain

事象の地平線によると、「光速を超えると物事を理解できない領域まで到達する。でもそこまでいかないと純粋な存在になんかなれない。風車みたいに」と言及されています。物理的に考えれば人間が光速で移動することは不可能なので、これは何かの比喩であることが読み取れます。これは量子力学で言う「幽霊=純粋な想い」が妥当でしょうか。

風車は回り続けようとすること自体が美しいとされていました。風車と立場を同じくしていたものの1つが、燐の紙飛行機です。蛍は「燐の幽霊=純粋な想い」を肉眼で捉えることが出来ないので、エピローグではそれを物質である紙飛行機として表現したと考えました。言わば、燐から蛍へのエールです。

いつか見える蛍の目的地まで、彼女が独りぼっちの人生を歩むわけではないという意味がエピローグに込められていると感じました。燐との永久不変の絆の証左とでもいいましょうか、燐は蛍の中で生き続けるのです。

 

まとめ

f:id:Innocent_Black:20220115044550j:plain以上で『青い空のカミュ』の考察は終わりになります。

私は本作の「空は青く果てしなく、透き通るように無意味だった」というキャッチコピーが、Leafの『天使のいない12月』の「願ったのは、束の間の安らぎ。叶ったのは、永遠という贖罪」並みに好きなのですが、考察をした後だと深く感じます。

作中で燐は蛍を「色があって透き通っている」と言っていたので、考察とキャッチコピーと合わせて「青空=蛍」なのかなと思ってました。が、ラストで蛍が「透き通った燐の声。燐の声色は青空みたい」とはっきり描写されたので、「青空=燐」ということになるんでしょうか。一体どちらが青空なんだ。

いや、「空は青く果てしなく、透き通るように無意味」ということは「目に見えないもの=燐の想い」がそこにあります。事象の地平線では、意味がなくなることが純粋な想いですから。果てしない青空は蛍の茫漠とした未来で、そこには燐の想いも一緒に居続けることから、2人の幸せの継続を意味するのではないか。つまり「完璧な世界」ですね。本当にそうか?ww

今回の考察だけでは正直物足りない気がします。正直分かっていないところもいくつかあるため。しかし、それだけ考察しがいのある作品だと思うので、他の皆さんも頑張って考えているんだろうな~。気が向いたら人の考察にも目を通しますし、追加考察も行います。でも、この記事を書くだけで15時間くらいかかっててめんど草。やっぱやらねえわ。

 

それでは、お疲れさまでした。

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