『雨音スイッチ ~やまない雨と病んだ彼女そして俺~』 感想・考察
こんばんは、いのぶらです。あけましておめでとうございます。
ドマイナーもいいところの鬱・ヤンデレ(メンヘラ)ゲーをプレイしました。
あまり考察が出来るような作品ではなかったので、感想と考察をまとめて書きます。
まず感想ですが、序盤の展開やキャラクターなどの魅力は十分。ろくでもないゲームということは作品名を見れば明らかですし、彼らがどのような地獄絵図に巻き込まれていくのかという期待がありました。
主人公の慎二がもっとまともだったのならば、ヒロインである雨音は救われていたのかもしれませんが、高校生という事を考えれば歳相応のキャラクター。というか、この手のヤンデレ・メンヘラをヒロインに据えるからには、相手にはそういった役回りを求められるのが当然ですから。
慎二君、よくやってくれました。好きでも嫌いでもないけれど。
メインヒロインの雨音はかなり好みでした、全キャラクターの中で一番良かった。何より庇護欲を煽るような不幸さが良かったですね。慎二に体を求められると生きる気力が湧いてくる単純なところもまた可愛いです。
本作はヤンデレゲーだと思っていたのですが、それよりはメンヘラゲーに近いものがある。調べてみたら、公式はメンヘラゲーとして扱っているようでした。自傷行為に走ったり、情緒不安定でやたら気弱だったり、反社会的な行為による周りへの影響が比較的少ないところがメンヘラっぽい。しかし、特定の相手にのみデレるという属性はヤンデレ寄りでしょう。自分と敵対する陽子などには、もっと後先を考えない暴挙に出てもいいと思いましたが、心の病を抱えてプレイヤーの同情を誘う彼女のキャラクターにはあまり合わないのかもしれませんね。ヒロインの資質は十分です。
雨音がとった行動の中で最もインパクトがあったのは、なんといっても慎二の母の葬儀中にウェディングドレスで凸るシーン。ライターはどんな生き方をして、これを思いついたのかが不思議でならない。大爆笑でした。
このシーンのいくらか前に、陽子から「慎二は暗い女が嫌いで、明るい女が好き」ということを知らされていたから、本人に「私は暗い女じゃないの」とアピールしたかったのかもしれませんね。または、「こんな時だからこそ、明るく彼を励まさなくちゃいけない」と思ったのかも。
…いや、無理があるわ。そうだったとしても、慎二の気持ちを察するだけの理性は残っていてもよさそうだし。きちんと作中で雨音の心理を掘り下げて欲しかったです。このシーンに限った話ではないのですが、キャラクターの言動の裏付けがもっと欲しい。
雨音が心の病を治療している十数年間に、慎二が陽子と結婚して子供まで作ったルートは良かったです。好きな男のために自分の大切な時間を捧げる純真さに、全く見合わない対価を与えられた悲劇の結末ですね。結局病気は治らなかったし、かわいそう。だがそれがいい。
2人の子供を見て脳が破壊されて、頭を抱えながら叫声をあげるCGはかなり萌えます。
ホルマリン漬けのカエルを押し付けられてえずくシーンもよかったですが、もっと本気の吐く演技をして欲しかったですね。『euphoria』の梨香のように。
いやぁ、でもこの顔を見ていると陽子が雨音をいじめたくなる気持ちも分かるかも…。
陽子もいいキャラクターをしていました。その名の通り、雨音との対比関係として描かれていました。雨音に慎二と別れることを強要する、彼女でも何でもないのに雨音に嫉妬して慎二との会話を一方的に打ち切るなど、自分勝手で幼稚な面があります。しかし、それが彼女の魅力でもありますね。年下属性持ちとしては、なかなか愛嬌のある子のように思えました。プレイヤーにはあまり好かれる立ち位置にはいないような気がしますが、私は好きでした。
自己中心的な言動が目立つ陽子ですが、実は雨音も彼女に似ているところがあります。リストカットや服毒による自殺を試みて慎二に迷惑をかけていますから。手のかかるという意味では2人に共通項がありましたね。だからこそ、水と油で仲良くなることはなかったのかも。
不満があるとするなら、雨音と対比させるのであればもっとそういった描写を増やすべきだったと考えます。どうしても話の薄っぺらさが目立ってしまいますから。
物語後半はライターの力量不足か、それとも締め切りに間に合わなかったのか、予算が足りなかったのかと思わせるような内容。伏線というか、気になっている部分が明らかにならないし、ところどころでぶっ飛びすぎたシーンが多すぎて感情移入しづらかったり、粗が目立ちました。個人的には葬儀シーンのあたりから崩れていきました。
具体的にはこれら。
場面の切り替えが目まぐるしい→最初は訳がわからなくなる
展開が唐突すぎて置いてけぼり→母の事故死など突然すぎてドラマより笑いが先に来る
アニメーション→そこで使う必要あるかと思う部分あり
雨音が転校してきた理由→素行不良で前学校に居られなくなったのか
雨音の部屋にある人形たち→出す意味が分からない
泉の言動→聡明な生徒会長にしては怒りの矛先を明らかに間違えている
雫の言動→姉の命令とは言え、雨音への当たりが内気とは思えない
雪華の言動→慎二と結ばれたのに、雨音を殺して犯罪者になったら慎二に迷惑かかる
ルート分岐→慎二の別ヒロインへの乗り換えがあっさり サブルートはほぼおまけ
正直探せばもっとあると思いますが、キリがないので。
雨音が雨に打たれたがる理由は、「母が聞かせてくれた話、雨が自分に幸福を呼んでくれることを信じたかったから」でしたが、彼女のよく分からない奇行が目立つ中、この点に関しては納得するためのきちんとした材料が用意されていたのがよかったです。
そのような雨音の健気で薄幸のキャラクター、アニメーションでの雨の表現、作中の梅雨の雰囲気、陰鬱な展開のかみ合わせは良くて好きでしたね~。雨のSEにもう少し趣向を凝らして、BGMがしとしととしたようなものであったのならば、もっと良かった。梅雨の季節が舞台になっている作品はあまり見たことがないし、雨が好きな私にとっては結構刺さりました。救いが全くないのもいい。
そこに話の深みが追い付いていなくて考察は出来ませんが、単純な読み物としては面白かった。コメディ色も強く、王道的な笑いではありませんが、キャラクターの常軌を逸した言動で笑えるタイプ。荒唐無稽というと暴言かな、そんなことないよね?ww
なので、テーマが何なのかは全く分からないです。正直思わせぶりな描写があるだけで、何を表現したかったのかがよく分かりませんし、中身が伴っていないので何かに絞ることが出来ません。強いて言うのならば、トゥルーエンドの雨音が言っていたように「幸せとは何か」なんでしょうが、それをきちんと説明できるだけのものを用意されていたとは感じられず、少なくとも私にはそれを読み取ることが出来ませんでした。
この点はお手上げです(΄◉◞౪◟◉`)
最後になりますが、本作をプレイしていて感じたことは、2ch発のギャルゲーである『止マナイ雨ニ病ミナガラ』にどころどころの要素が似ているなということです。どちらも舞台は梅雨で、精神を病んだヒロインが登場しますから。
あちらの方が話の構成は上手だった記憶がありますし、それほど突飛でもありません。ピンボケした風景や、いい意味で臨場感のないBGMがいい味を出していました。なんというか、アングラな感じがヤンデレを扱うゲームによくマッチしていた気がしますが、物語がハッピーエンドで締められる性質上、ヒロインはヤンデレを卒業してしまうのが難点でありました。
その代わりに『雨音スイッチ ~やまない雨と病んだ彼女そして俺~』は、一般的なハッピーエンドで締められるルートは1つとして存在せず、雨音は徹頭徹尾病みっぱなしで、ヤンデレヒロインとしての務めを立派に果たしてくれました。正確にはヤンデレというよりメンヘラに近い性質を持っていましたが。これはこれでいじらしくて可愛げがありますね。未踏の地へ足を踏み入れました、もちろんいい意味で。
ヤンデレの病んでいる部分がなくなってしまったら、それはただの一途な女の子です。故にヤンデレがヤンデレであり続けるために、物語の帰結はハッピーエンドではあり得ず、本作のような結末が最もふさわしいと言えるでしょう。
感想・考察は以上です。
うーん、好きなゲームの1つになったことに違いはないけれど、もうちょっとシナリオを練ったら良いゲームになったと思うな。いいものをもっていただけに、そこだけが惜しいなと思います。
自己採点 100点満点中、79点。