鬱エロゲーの車窓から

鬱エロゲーの考察と感想を綴る~! R18、ネタバレ注意だぜ!

『青い空のカミュ』 感想

前置き

こんばんは、いのぶらです。

連日の更新になります。

実を言うと、本作は『雨音スイッチ』より先にクリアしていたのですが、そちらをプレイしたい欲求があって後回しにしていました。ゲーム自体の完成度はこちらの方が数段上といった印象がありましたね。きちんと考察もできる内容で、原画とシナリオを同一の方が担当されているとは思えないレベルです。有能すぎるわ。ゲームというより、作品と表現した方が適切と言っていい。まぁエロゲーなのですが。

 

ゲームをプレイしての感想

本作はとにかくCG、背景、文章、音楽、演出などのありとあらゆる手段を用いて、唯一無二とも言えるほどのムードと世界観を創造しています。ここまで懐郷的でエモーショナルな雰囲気を持つ作品は、私が今までプレイしたゲームの中だと『ヒトカタノオウ』以外にはありませんでした。いや、それを優に超えているかもしれない。他には『少女神域∽少女天獄』もよく作り込まれている設定でしたが、そちらはあまりに文章での描写がしつこく間延びしたものでした。本作にはそれがあまり感じられない。

 

f:id:Innocent_Black:20220113192658p:plainf:id:Innocent_Black:20220113193707p:plainf:id:Innocent_Black:20220113194209p:plainf:id:Innocent_Black:20220113194920p:plain

このような牧歌的な景観は、高校~大学で電車通学をしていた身からするととても懐かしいですね。田舎に住んだことのない人でも、これらのCGを見て懐かしさを覚えるのではないでしょうか。電車内の音や川のせせらぎなども、その感覚を呼び起こすのに十分な効果を発揮していました。

文学、特に宮沢賢治を意識していたのかオノマトペの使い方も上手で、小難しい語彙に頼らない表現は万人受けもしやすいと思います。もっとも私は文学には疎く、全くの蒙昧なのですが。蛍と燐もよく理解しているようだし、教養として何冊か読んでおかないと恥ずかしい気がしてきた。

 

f:id:Innocent_Black:20220113195340p:plainf:id:Innocent_Black:20220113195503p:plainそしてなにより、本作のテーマでもある空の表現はため息が漏れるほど美しいですね。原画家はキャラクターよりもこういった風景を描出するのが非常に上手です。このあたりの力の入れようは明らかですね、とても素晴らしいと思います。加えて、恋愛要素が希薄で女の子同士の友情を表現しているため、ギャルゲー・エロゲーといった概念を当てはめるのに躊躇すらします。いや、エロゲーですけど。

こうした美しいCGを見るためだけにこのゲームを買っても、損にはならないです。

 

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虚ノ少女》 

私はInnocent Greyから発売されているエロゲーである《虚ノ少女》のCGが最も美しいと思っていたのですが、少なくとも上述の風景・背景に関してはこちらの方が上に感じます。加えて雰囲気作りも上手すぎる、これは大きなセールスポイントだと思います。そもそも両作品の系統が違うので、力を入れている部分も異なるのでしょうが。どちらにせよ、業界トップクラスであることに変わりはありません。

 

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メインのキャラクターは親友同士である燐と蛍でした。好みかどうかと聞かれれば、正直2人ともストライクとは言えないですが、可憐ではありました。幼さを感じさせる可愛らしい見た目は、重いテーマと救われない結末を上手く引き立てていますね。最初はミスマッチな気がしましたが、擦れていない純粋な想いを象徴的に表現したという意味ではこの幼さが作品に合っていますし、ゲームをプレイし終わるとこれで良かったと思わせてくれました。

というか原画家の他の作品を覗き見る限りでは、あえてこうしたキャラクターデザインにしているように思えるのですが、そこまで行くと私の考えすぎでしょうか。よく出来た作品だからこそ、あえてそうしている気がしてなりません。

 

f:id:Innocent_Black:20220113203145p:plainf:id:Innocent_Black:20220113203221p:plainf:id:Innocent_Black:20220113203321p:plainf:id:Innocent_Black:20220113204051p:plain互いが親友を守るために消火器や鉄パイプで敵を打擲するシーンは、その迫真さと可愛らしい見た目が手伝って、シリアスな場面なんでしょうが心の底から笑ってしまいました。

燐が無免許運転の車で人を撥ねまくるところも面白かったです。蛍が「乗り捨てて歩くしかない」と言っていましたが、もっと他に言い方があるだろうと突っ込んでいました。ヤ〇ザか何かかよ。「置いていく」の方が彼女のキャラクターに合った表現だと思ったので、なおさら笑えました。

個人的にはこれらのシーンは作中でも屈指のコミカルさ。私は燐の方が思い切りが良くて好きでしたね。

 

f:id:Innocent_Black:20220113204401j:plain因みに、車にある程度詳しい方ならお気づきだと思いますが、彼女たちが乗っていた車はスズキのラパンです。とてもキュートなエクステリアで、2人にはぴったりの車でした。メルセデス・ベンツのSクラスや、トヨタのセンチュリーのようなもっと厳つい車だったらなおさら面白かったのですが、そこまでしてしまうと路線が変わって任侠モノになりそうなので、この車で正解ですね。

 

f:id:Innocent_Black:20220114022801p:plainトゥルーエンドの締めは見事と表現するほかありません、最高です。私がここ数ヵ月の間にプレイしたゲームの中では、間違いなく最高峰と言えます。燐が消失して蛍が悲しみに暮れるエンディング。しかしそれは作品を咀嚼すればするほど、単純なバッドエンドではない、非常に練りに練られた構成であることが分かるでしょう。純粋に蛍が一人ぼっちになってしまう後味の悪い結末として見てもかなり好みです。詳しいことは考察編で解説しますが、本当に素晴らしい結末でした。

原画・シナリオ担当の〆鯖コハダ…恐ろしい子。美味い、美味すぎるぞ。〆鯖コハダだけに。怒涛のラストシーンのおかげで、序中盤のだるさが一気に吹き飛びました。再三になりますが、この〆は本当に良かったです。〆鯖コハダだけに。バッドエンドもテーマによく合っていて好みでした。

 

まとめ

序盤から中盤にかけての展開がやや冗長に感じられて、キャラクターにもそれほど魅力を感じられなかったのが不満点になります。しかし、それら短所を補って余りあるほどの結末と、全体的な雰囲気は非常によろしく完成度は高いです。トゥルーエンド、バッドエンドともに心地よい余韻が残りました。人に自信を持って勧められる作品。

自己採点 100点満点中、80点。